【1日5分】あらすじ三国志「一覧」はこちらから!

曹操、献帝の難を救う
洛陽(=現在の河南省西部。司隷(司州)東部。記事下の地図参照。)に到着し、一様に安堵する献帝や楊奉、董承らであったが、「李傕・郭汜、長安より出陣する」の報を聞いた途端、みな顔色を失ってしまった。
廃墟と化した洛陽では、とても天子(=皇帝。)をお守りすることはできない。
そのため、安集将軍董承は、頴川(=現在の河南省中部。豫州南部。)・山東(=現在の山東省。兗州・青州一帯。)地方で勢いありと評判の曹操を頼るべきと進言し、その言を容れた献帝は一路、頴川に向かわれることとなった。
しかし、献帝をお乗せした御車が30里ほど進んだ時、突如頴川の方向から迫る騎馬の大軍勢が現れた。
山賊か、蛮族か、はたまた李傕・郭汜の伏兵か?
朕は、今度は誰の手に落ちるのであろうか?
進退極まった献帝は、ついに観念なさった。
皇后を抱き寄せ、「いつかはまた天佑(=天の助け。)も訪れようぞ。これまでもそうであった」と、落涙しながら優しく語りかけなさるのであった。
そこへ、斥候(=偵察兵。)が戻って来て、迫り来る軍勢の正体を報じた。
陛下、こちらに迫ってくるのは賊ではございません。
曹操です!
頴川から曹操が駆けつけてきたのです!
陛下が長安よりお送りになった勅使も同行しております。
「まことか!」と、献帝は大いにお喜びになった。
そして、御車の窓より身を乗り出すようにして曹操の軍勢をご覧になった。
なるほど、「曹」の旗がいくつも颯爽と揺らめいている。
よく見れば、隊列は整い、甲冑はみな統一されていて、洗練された部隊に違いなかった。
とても山賊であるとは思われない。
曹操の軍勢は、献帝の御車の側まで来ると、綺麗に隊列を組み直した。
夥しい数である。
陣頭にいた武士は馬を降り、兜を脱ぎ抱いて御車の前に跪くと、恭しく拝礼した。
曹操旗下、夏侯惇が陛下に拝謁いたします。
陛下をお救いするため、許昌(=現在の河南省中部。豫州頴川地方にあった。)より駆けつけましてございます。
主曹操は本隊を引き連れ西進しておりますゆえ、速やかには参れません。
道中はここにおります典韋将軍、許褚将軍と共に陛下をお守り致します。
どうぞご安心召されますように。
高希希監督『Three Kingdoms』の夏侯惇
献帝は夏侯惇率いる5万の精兵に守られながら、再び洛陽に帰還することになった。
その途上、またも洛陽に向けて新手の大軍が押し寄せているとの報告があった。
その知らせがもたらされると、献帝はにわかにお慌てになるが、夏侯惇はすぐさま御車の側まで駒を進め、「それは主曹操の従兄弟、曹洪将軍の徒歩勢でございます」と答えた。
曹洪は中軍として、李典や楽進を副将に3万の歩兵を引き連れ、夏侯惇の部隊に合流したのであった。
献帝は、どこまでも延びる曹操の軍勢を再び車窓より眺望なさり、思わず感嘆なさった。
思えば、長安を出立して以来、これだけの軍勢に守られたのは初めてであった。
常に心許ない行軍であった。
黄巾賊の残党、白波軍に守られたこともあった。
しかし、今は漢にゆかりのある曹氏(=曹操の父曹嵩の養父曹謄は、漢の高祖(初代皇帝)劉邦に仕えた功臣曹参の子孫であった。)の大軍に守られている。
献帝は8万の曹操軍に護衛されながら、意気揚々と洛陽に到着なさったのであった。

曹操、献帝に拝謁する
夏侯惇に遅れること半刻、曹操は10万の本隊を引き連れて現れた。
燃え立つような赤の甲冑、赤の戦袍、赤柄の槍。
世に名高い、曹操の赤備えの軍隊である。
洛陽に入った曹操は、参謀の荀彧にあれこれ指示を与え、まず肉の羹(=吸い物。)を用意させた。
献帝や侍従は長安を脱出して以来、まともな物は口にしてはおるまい。
安邑(=現在の山西省運城市。司隷(司州)東部。洛陽の西隣に位置する。)では粗末な仮御所に滞在していたと聞く。
ここまで飲まず食わずであったろうよ。
そんな時は、黄金や女よりも食い物だ。
食い物の恩というものはなかなか忘れぬものよ。
後々のこともやりやすくなる。
董卓暗殺に失敗した後の、逃亡中のひもじさを思い出しているのであろうか、曹操はしみじみ語るようにして荀彧に命じるのであった。
羹の用意ができると、曹操は荀彧にそれを運ばせ、献帝に献上した。
続けて、侍従たちにも漏れなく羹が振る舞われた。
長安での監禁生活では腐敗した肉や魚を、また洛陽への逃避行では野草まで食した一行である。
献帝や侍従はみな感極まり、無心でそれを食した。
楊奉や韓暹といった、曹操の野心を警戒する者たちでさえ、あっという間に羹を平らげた。
献帝がお尋ねになると、荀彧は殿舎の階を右手で指し示し、「陛下のお許しが出るのを、主曹操は殿舎の外で待っております」とお答えした。
献帝は即位なさってからこの方、始終臣下の脅威に晒されて来た。
傀儡(=操り人形。)に過ぎなかった。
天子としての自信と威光を取り戻すかのように、献帝は冠の乱れをお直しになるような仕草をなさった。
曹操とはどのような男か、侍従らの視線が階下に注がれる。
満を持して曹操が現れた。
曹操は剣を帯びず、衣冠束帯に身を包み、低頭して献帝の玉座まで歩みを進める。
董卓や李傕・郭汜とは全く異なるその一挙手一投足に、侍従もすっかり胸を撫で下ろした。
鎮東将軍曹操が、陛下に拝謁致します。
この度、陛下の詔を承り、頴川地方は許昌より駆けつけました。
到着が遅くなり、天子にご不便をお掛けしましたこと、重ね重ねお詫び申し上げます。
これより先は、この曹操が一命を賭して陛下をお守り申し上げます。
献帝は、恭しく相対する曹操にいよいよ叡感(=皇帝が感心なさること。)をお示しになった。
誠に忠臣である。
朕は嬉しく思うぞ。
これからも頼りにしておる。
これによって、曹操は天子の後ろ盾となり、洛陽に迫りくる李傕・郭汜との決戦に臨むことになったのであった。
西暦 | 出来事 | 年齢 | ||||||
劉備 | 孔明 | 曹操 | 孫策 | 袁紹 | 董卓 | 呂布 | ||
前202 | 劉邦が項羽を滅ぼす。漢王朝誕生。 | |||||||
前157 | 景帝が漢の皇帝に即位する。 | |||||||
168 | 霊帝が漢の皇帝に即位する。 | 7 | 13 | 14 | 30 | 7 | ||
181 | 何氏が霊帝の皇后となる。 | 20 | 26 | 6 | 27 | 43 | 20 | |
184 | 黄巾の乱が起こるも、同年鎮圧。 | 23 | 3 | 29 | 9 | 30 | 46 | 23 |
189.5 | 霊帝が崩御し、少帝が即位する。 | 28 | 8 | 34 | 14 | 35 | 51 | 28 |
189.9 | 少帝が廃位され、献帝が即位する。 | 28 | 8 | 34 | 14 | 35 | 51 | 28 |
190.1 | 反董卓連合軍が結成される。 | 29 | 9 | 35 | 15 | 36 | 52 | 29 |
190.2 | 董卓、都を長安に遷す。 | 29 | 9 | 35 | 15 | 36 | 52 | 29 |
192 | 董卓、暗殺される。 | 31 | 11 | 37 | 17 | 38 | 54 | 31 |
193 | 曹操、徐州に侵攻する。 | 32 | 12 | 38 | 18 | 39 | 32 | |
194 | 劉備、徐州を領する。 | 33 | 13 | 39 | 19 | 40 | 33 | |
196.7 | 献帝、洛陽に帰還する。 | 35 | 15 | 41 | 21 | 42 | 35 |
コメント