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曹操、洛陽に急行する
献帝は、夢にまで見た洛陽(=河南省西部。司隷(司州)東部。長安に遷都する前の都。記事下の地図参照。)の地にお入りになった。
董卓に連行され、いち早く洛陽を退去して長安にお入りになった献帝は、炎上する洛陽の姿をご覧になってはいない。
初めてご覧になる無残な洛陽の有り様に、献帝はしばし時を忘れて呆然とするのだった。
呂布によって祖廟が暴かれたことは献帝のお耳にも入ってはいたが、かつて幾度となく訪れたその場所さえ特定できないほど、瓦礫が散乱し、その隙間からは草木が生い茂っていた。
しかし、献帝のお心はどこか晴々としていた。
高希希監督『Three Kingdoms』の献帝
宮人の「万歳」の声が鳴り止まない。
献帝はこの時、自らの手で大漢を再興する目算を密かにお立てになっていたに違いない。
その頃、賈詡の進言によって発せられた李傕・郭汜討伐の詔を奉じた勅使は、各地の諸侯のもとに到着し、その返答を待っていた。
また、天子(=皇帝。)が長安を脱し、洛陽方面に向かって逃避行を繰り広げているということも、各地の諸侯は掴んでいるはずであった。
冀州(=現在の河北省を中心とする地域。)を統治している袁紹のもとでは、献帝を受け入れるか否かで賛否両論が巻き起こっていた。
高希希監督『Three Kingdoms』の袁紹
参謀の田豊は、断固として受け入れ反対を表明した。
ご主君、天子を擁した者の末路をご存じでしょう。
董卓は滅び、李傕・郭汜は玉体(=皇帝のお体。)を巡って消耗戦を繰り返した挙げ句、今や賊軍となって悲惨な末路を辿っております。
逃避行を重ね、皇宮さえ持たない天子に何の旨味がございましょうか?
火種となるだけでございます。
それよりも、今は幽州の公孫瓚を討伐し、版図を広げることこそが肝要です。
収穫が済み次第、征伐すべきです。
田豊が言い終わると、同じく参謀の許攸が進み出て袁紹に拝礼し、「我が君、この機を逃してはなりません」と、自論を展開し始めた。
献帝を擁するは天下を味方につけることと同じです。
漢に忠義の心を抱く諸侯は未だに少なくはありません、だからこそ反董卓連合には十八もの諸侯が参じたのです。
この時、献帝は力を持っていたでしょうか?
無力であるにもかかわらず、あれだけの諸侯が集ったのです。
高希希監督『Three Kingdoms』の許攸(右)と田豊(左)
許攸は田豊をちらと見て、その弁舌を続行した。
田豊殿は目に見える旨味ばかりに注目しておりますが、天子はいるだけで価値があるのです。
漢の天子の詔を巧みに利用すれば、兵を出さずして諸侯を操ることができます。
また、万が一、詔に応じなければ、その諸侯は逆賊となります。
その際は、漢の名のもとに他の諸侯と連合して攻めればよいのです。
版図は自ずと広がりましょう。
この、目に見えぬ旨味を堪能しない手はございません。
どうか、どうかご英断を!
袁紹は腕組みをし、まだ決めかねている様子だった。
そこで、許攸は奥の手を使った。
すかさず、「他の者とは誰だ?」と袁紹は尋ねたが、袁紹にはある人物の顔が脳裡をよぎっていた。
許攸は袁紹の目を見ながら、右手を天に突き上げて答えた。
兗州の曹操です。
袁紹は曹操の一歳上で、かつては悪童としてよく交わりを持っていた。
大胆不敵で深謀遠慮、果断に富んだ曹操を、袁紹は少年時代から密かにライバル視していた。
袁紹や曹操とよく連んでいた許攸は、そこを突いたのである。
袁紹は目を閉じ、しばらく沈黙してから立ち上がり、許攸に命じた。
そなたの言う通りである。
今すぐ顔良・文醜(=いずれも袁紹の猛将。)を従え、5万の騎兵と共に洛陽を目指せ!
許攸は「ははっ」と言って顔良・文醜と共に殿上を退くと、二将軍に命じた。
時は急を要する。
顔良殿は精兵500を従え、私と共に洛陽に急行する。
文醜殿は残りの兵と共に、できるだけ早く洛陽に向かうのだ。
奇しくも許攸とは竹馬の友であった曹操も、天子を抱える旨味は存分に分かっていた。
そのため、曹操は昼夜を分かたず、洛陽を目指して駒を進めていた。
曹操は、天子を擁することが、どれだけ自分の覇業に利することかを分かっていたのである。
先に玉体を手にするのは袁紹か、それとも曹操か。
このように、玉体の争奪戦は水面下で、激しく火花を散らしていたのであった。

李傕・郭汜、再び出陣する
「陛下!陛下!」と、洛陽に急報が舞い込んできた。
陛下、李傕・郭汜の軍勢が長安から出陣したとのことです。
今ごろは、すでに弘農(=河南省西部。司隷(司州)東部。洛陽の西隣に位置する。)の辺りにまで進軍しているものと思われます。
献帝の龍顔からは生気が失われた。
そして、侍従らの面も蒼白となった。
楊奉は抜刀するなり進言した。
しかし、すぐさま董承が反論した。
李傕らの軍は10万を下りますまい。
対する我らは、腹を空かせた1000の兵士がいるばかり。
これでは、とても太刀打ちできません。
また、長安からの出兵であれば、兵糧や武具は潤沢に取り揃えてありましょう。
短期戦でも不利、長期戦でも不利。
頴川(=現在の河南省中部。豫州西部。)の曹操を頼ってみてはいかがでしょうか。
曹操の兵力は今や30万とも40万とも言われております。
その昔、逆賊董卓を暗殺しようとして失敗し、陳留で再起を図って反董卓連合に加わり、参謀まで務めた男にございます。
漢に報いる心持ちは多分に持ち合わせておりましょう。
頴川であれば、ここからさほど遠い距離ではございません。
陛下、どうか曹操のもとへ!
命あっての物種である。
「命があれば捲土重来、再びこの洛陽の地を踏み締めることも叶いましょう」と念押しした董承の意見を、献帝はお聞き入れになった。
すると、外からまた知らせが舞い込んできた。
献帝は即座にお尋ねになった。
西方からは李傕・郭汜が。
東方からは得体の知れない軍勢が。
献帝は再び、絶体絶命の危機に瀕したのであった。
西暦 | 出来事 | 年齢 | ||||||
劉備 | 孔明 | 曹操 | 孫策 | 袁紹 | 董卓 | 呂布 | ||
前202 | 劉邦が項羽を滅ぼす。漢王朝誕生。 | |||||||
前157 | 景帝が漢の皇帝に即位する。 | |||||||
168 | 霊帝が漢の皇帝に即位する。 | 7 | 13 | 14 | 30 | 7 | ||
181 | 何氏が霊帝の皇后となる。 | 20 | 26 | 6 | 27 | 43 | 20 | |
184 | 黄巾の乱が起こるも、同年鎮圧。 | 23 | 3 | 29 | 9 | 30 | 46 | 23 |
189.5 | 霊帝が崩御し、少帝が即位する。 | 28 | 8 | 34 | 14 | 35 | 51 | 28 |
189.9 | 少帝が廃位され、献帝が即位する。 | 28 | 8 | 34 | 14 | 35 | 51 | 28 |
190.1 | 反董卓連合軍が結成される。 | 29 | 9 | 35 | 15 | 36 | 52 | 29 |
190.2 | 董卓、都を長安に遷す。 | 29 | 9 | 35 | 15 | 36 | 52 | 29 |
192 | 董卓、暗殺される。 | 31 | 11 | 37 | 17 | 38 | 54 | 31 |
193 | 曹操、徐州に侵攻する。 | 32 | 12 | 38 | 18 | 39 | 32 | |
194 | 劉備、徐州を領する。 | 33 | 13 | 39 | 19 | 40 | 33 | |
196.7 | 献帝、洛陽に帰還する。 | 35 | 15 | 41 | 21 | 42 | 35 |
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