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王允、貂蟬に跪く
謀反の疑いで殺害された司空(=政策立案を司る長官。)張温の仲間を捕縛するために王允の邸宅を訪れた呂布は、王允の娘貂蟬の美貌に我を忘れてしまうのでした。
そして、その光景を目撃した王允は、董卓を倒すための、ある秘策を思いつくのでした。
その夜、王允は貂蟬を呼び出すなり、突然跪くのでした。
父上、なりません。
何故私などにこのようなお姿をなさるのですか?
娘などに跪いてはなりません。
王允は貂蟬の手を取り、落涙しながら懇願します。
いまわしは、娘に対して跪いているのではない。
この大漢を逆賊から救う聖女に対して首を垂れるのだ。
貂蟬よ。
どうか、どうかこれから父の言うことを承知してくれ。
突然の出来事に貂蟬は慌てふためき、なんとかして王允を起立させようと、王允の腕に取りすがりました。
父上は身寄りのない私をここまで育てて下さいました。
まして私への接し方は、本当のお子たちと何一つ分け隔てのないもの。
学問や諸芸まで修めさせてくださいました。
この御恩は、死んでも返しきれるものではございません。
父上のおっしゃることを、どうしてこの貂蟬が断れましょうか。
何なりとお申し付けください。
貂蟬は涙ながらに、父王允の申し出を快諾するのでした。
よくぞ申してくれた。
わしはこれから手塩にかけて育ててきたお前に、破廉恥で、猥褻で、下劣極まりないことを言わねばならぬ。
しかし、これは天下を救う唯一の方法なのだ。
父のこの心苦しさを、どうか理解した上で聞いておくれ、貂蟬。
貂蟬は袖を何度もその両の目に当てがい、「なんなりとお申し付けください」と繰り返し、精一杯真心を込めて答えるのでした。
賢いお前は気がついただろうが、呂布はお前に恋をしておる。
今ごろ、呂布の心はお前で満たされていることだろう。
折を見て、わしは呂布をこの屋敷に招く。
その時こそ、貂蟬、お前には呂布を好いた振りをして欲しいのだ。
貂蟬は王允の眼を見つめ、確かめるように尋ねます。
王允は軽く首を横に振ってから、また苦しそうに話し始めました。
貂蟬よ、話はここからなのだ。
呂布にお前を嫁がせる約束を取り付けた後、今度はここに董卓を招き、お前を接見させるつもりだ。
お前は都一の美人。
郿塢に住まう、どんな侍女にも負けはせぬ。
董卓は欲深く、独占欲の強い男だ。
董卓がそなたを見て、見染めぬはずがない。
必ずやお前を我が物としようとするだろう。
董卓には知謀に長けた李儒、そして稀代の英雄呂奉先(=「奉先」は呂布の字。)がいる。
しかし、この謀、連環の計が上手く行けば、呂布と董卓はお前を取り合い、十中八九仲違いするはずだ。
呂布なき董卓は翼を失った禿鷹。
片足をもがれた狼だ。
その時こそ董卓を討ち、この大漢に再び秩序を取り戻すことができるのだ。
貂蟬の顔から、みるみる色が失われていきます。
その瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちます。
18歳の初心な貂蟬には、あまりにも残酷な請願でした。
貂蟬は黙ったまま、ゆっくりと立ち上がり、そのまま自室に籠るのでした。
貂蟬様、ご主人様のご様子がおかしうございます。
もう3日も朝議に参ずることなく、また飲食もしておりません。
息も絶え絶えのご様子。
このままでは、ご主人様のご容態が危ぶまれます。
愛娘の貂蟬様が行って差し上げれば、きっとご回復なさるはずです。
貂蟬はそれを聞くと、ゆっくり腰を上げ、王允のもとに向かうのでした。
涙はすでに枯れ果てていました。
この3日間、この貂蟬とて一雫の滴りさえ口にはしていませんでした。
貂蟬は王允の前に跪くと、「父上、先日のお話、お引き受けします」と力なく言うのでした。
だからどうか、お食事をお摂り下さい。
みな、父上のことを心配しております。
その言葉を聞いた王允の目からはいつか涙が溢れ、貂蟬の手を取るなりいつまでも「すまない、すまない」と繰り返すのでした。

連環の計、発動
翌日、王允は呂布の私邸に、見事な玉で装飾された黄金冠を贈ったのでした。
「司徒(=行政を司る長官。王允のこと。)殿がなぜ私に?」と疑問を覚えつつも、自分の心を捉えて放さない貂蟬に会う口実ができたと胸を弾ませながら、呂布は赤兎馬を駆って王允の邸宅に向かうのでした。
「司徒殿、あの黄金冠はどういう意味ですかな?」と呂布が尋ねると、王允は事もなげに答えました。
あれは、日頃相国(=現在の日本で言うところの内閣総理大臣。董卓のこと。)への忠勤に励む将軍への敬意の品。
国家の英雄を称える賛美の品です。
怪しまず、お受け取り下さい。
せっかくお越しくだされたのだ、今日はごゆるりと当屋敷でおくつろぎ下さい。
これ、酒を持って参れ。
王允は美酒で呂布をもてなしながら、董卓相国にとって呂布がどれだけ欠かせない存在であるか、王允がいかに呂布を英雄視しているかを訴え掛け、呂布をすこぶる有頂天にさせたのでした。
宴もたけなわになった頃、王允は「酒だけでは興に乏しい、我が侍女たちの歌舞をご披露しよう」と言って、女たちを舞わせました。
呂布はその女の中に、恋してやまない貂蟬の姿を探します。
しかし、麗しき貂蟬の姿は見つかりません。
「司徒殿、先日お見かけしたあの・・・」と呂布が言い掛けたその時、仙女かと見まがうほどの妖艶さを湛えて、一人の娘が歌舞の中央に分け入り、見事な演舞を呂布に披露するのでした。
王允が酒を勧めても、もはや呂布は聞く耳を持たず、一心に貂蟬の舞いに見惚れています。
楽女が奥に下がった後、呂布は王允に尋ねました。
いえ、あれは我が娘の貂蟬にございます。
普段は宴には参じませぬが、奉先殿がいらしているとあっては歌舞にも花がなければなりません。
故に、貂蟬にも舞わせたのでございます。
よもや、貂蟬がお気に召しましたかな?
呂布は武人らしく少し照れた様子で、その問いには直接答えず、「あれほどの女性は郿塢(=董卓の御殿。800人以上の美女が董卓に伺候していた。)にもおらぬ」とだけ答えるのでした。
王允は微笑し、「これ、貂蟬をこちらへ!」と言って貂蟬を再び宴席に呼び寄せ、呂布の隣に座らせるのでした。
貂蟬は先日と同じように、その端正な顔を朱に染め、呂布に面を見せることなく俯いたまま、呂布に側に控えるのでした。
なんと気高くお美しい。
まさに天女だ。
呂布は貂蟬の美貌に釘付けになります。
すると、王允は改まった口調で呂布に言いました。
そんなにお気に召しましたのなら、将軍に差し上げます。
貂蟬も、将軍に思いを寄せている様子。
貂蟬を将軍にお譲りできるのであれば、父としてはこの上ない幸福でございます。
「この私に?」と、呂布は驚きます。
ええ、将軍はいまや董卓相国の懐刀。
私はこの貂蟬を、一角の英雄に嫁がせたいと常々考えておりました。
こちらからお願い申し上げたいくらいでございます。
王允は呂布に深々と首を垂れて、「何卒」と懇願します。
呂布は哄笑して、「必ずですぞ、司徒殿!」と満足げに言うのでした。
ええ、承知いたしました。
しかし、今日はもう遅うございます。
これ以上遅くなれば、相国に怪しまれましょう。
今晩はこれにてお帰りください。
また吉日をもって婚儀の話を進めることにいたしましょう。
それを聞いた呂布は、顔面に喜悦を漲らせ、意気揚々と帰っていくのでした。
西暦 | 出来事 | 年齢 | ||||||
劉備 | 孔明 | 曹操 | 孫策 | 袁紹 | 董卓 | 呂布 | ||
前202 | 劉邦が項羽を滅ぼす。漢王朝誕生。 | |||||||
前157 | 景帝が漢の皇帝に即位する。 | |||||||
168 | 霊帝が漢の皇帝に即位する。 | 7 | 13 | 14 | 30 | 7 | ||
181 | 何氏が霊帝の皇后となる。 | 20 | 26 | 6 | 27 | 43 | 20 | |
184 | 黄巾の乱が起こるも、同年鎮圧。 | 23 | 3 | 29 | 9 | 30 | 46 | 23 |
189.5 | 霊帝が崩御し、少帝が即位する。 | 28 | 8 | 34 | 14 | 35 | 51 | 28 |
189.9 | 少帝が廃位され、献帝が即位する。 | 28 | 8 | 34 | 14 | 35 | 51 | 28 |
190.1 | 反董卓連合軍が結成される。 | 29 | 9 | 35 | 15 | 36 | 52 | 29 |
190.2 | 董卓、都を長安に遷す。 | 29 | 9 | 35 | 15 | 36 | 52 | 29 |
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