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董卓、血の杯を与える
孫堅が劉表によって殺害された頃、新都長安(=現在の陝西省西安市。司隷(司州)。記事下の地図参照。)では董卓の専横がいよいよ苛烈を極めるものになっていました。
高希希監督『Three Kingdoms』の董卓
董卓は自分の弟の董旻に御林軍(=天子(=皇帝。)を警護する軍隊。)を指揮させ、甥の董璜を侍中(=王宮を管理する役人。)に任命して天子の側に仕えさせました。
これによって董卓は王宮のあらゆる所に目を光らせ、少しでも自分に批判的な言動を取る者がいようものなら、即座に連行して投獄、または斬首刑に処すのでした。
そして、自らは郿塢と呼ばれる、天子の宮殿をも凌ぐ絢爛豪華な御殿に住まい、天下からかき集めた財物をあまた所蔵し、約20年分の兵糧を蓄え、そして15歳から20歳までの見目麗しい800余人の美女たちを自分の側近くに侍らせたのでした。
高希希監督『Three Kingdoms』の郿塢
ある日、董卓は文武百官を招待し、宴を催しました。
酒宴もたけなわになった頃、剣を佩いた呂布(=一騎当千の勇将。董卓とは親子の契りを交わしていた。)が闊歩して現れ、何やら董卓に耳打ちをするのでした。
高希希監督『Three Kingdoms』の呂布
一切の歓談が止み、一同に緊張が走ります。
そこに居合わせた者は、固唾を飲んでその様子を見守ります。
董卓は呂布に「決して逃がすでないぞ」と指示を出したかと思うと、呂布は司空(=三公の一つ。政策立案を司る長官。)張温の前まで歩み出て、張温の髻(=髪を頭の上で束ねた部分。)を掴んで引きずり、どこかに連行していったのでした。
以下、残酷な場面となりますので閲覧注意願います。
苦手な方は、次章の「王允の嘆き」までスクロールしてください。
半刻が過ぎた頃、今度は陪膳係の者らが複数の盆を奉じてやって来て、中央の卓にそれを置きます。
文武百官は、その盆の上にある物を見てぎょっとしました。
みるみるうちに顔は青ざめ、中には腰を抜かす者もいたくらいです。
盆の上には、生気を失って青黒くなった張温の首や手足が乗っていたのでした。
百官どもよ。
張温は事もあろうにわしの言いつけに逆らい、袁術と内通していたという報告が入ってなあ。
袁術と言えば、先年反乱を起こした袁紹の弟。
献帝の威光に抗う逆賊である。
今日は見せしめとして、この逆賊の血肉を食してやろうと思ってな。
董卓がそう言うと、今度は侍女たちが百官に杯を手渡します。
そして、それぞれの杯には、何やら赤い液体がなみなみと注ぎ込まれるのでした。
公卿大臣たちは恐れ慄きます。
その場で嘔吐する者もありました。
それは、紛れもなく張温の血を混ぜた酒だったのです。

王允の嘆き
司徒(=三公の一つ。行政を司る長官。)王允は自らの邸宅に戻るなり、中門の辺りで嘔吐しました。
「父上!父上!」と、一人の少女が心配して駆け寄ってきます。
それは王允の娘、18歳になる絶世の美女貂蟬でした。
貂蟬はもともと身寄りのない孤児でしたが、市に売られているのを哀れに思った王允が引き取り、養育したのでした。
王允は、当時公達(=貴族の子弟。)が修めるべきとされていた学問を貂蟬に学ばせ、併せて女子が身に付けることをよしとされていた諸芸をも惜しみなく修めさせました。
まさに、才色兼備という言葉が相応しい女性でした。
お父上、どうなさったのですか?
お顔の色が優れません。
九重(=宮廷。)で何かおありでしたか?
すると、王允は天を仰いで叫びました。
蒼天よ!
先帝よ!
この王允は獣でございます。
董卓が帝を恣にしてより2年、この王允は董卓を取り除くこと叶わず、洛陽は炎上して歴代の天子の祖廟(=歴代の帝王の御霊を祀る聖堂。)は暴かれ、今日も志ある者が無念の死を遂げました。
私は董卓に命じられるまま、その者の血を啜ったのです。
先帝よ、どうかこの王允の腑をかっ捌いて罰をお与え下さい。
貂蟬は王允に優しく取りすがりながら、「父上、誰が聞き耳を立てているか分かりません、滅多なことをおっしゃってはなりません」と涙ながらに懇願するのでした。
すると、悲嘆に暮れる王允のもとに、慌てた様子の従者がやって来て急を告げました。
呂布です!
ご主人様、呂布殿がお越しになりました。
呂布殿が、軍隊を引き連れてやって来ました。
門を強く叩く音が聞こえます。
司徒殿!
いるのであろう!
この門を開けよ!
門を叩く音は激しさを増していきます。
王允は急ぎ服を整え、貂蟬に茶の準備をするよう指示して自ら門まで出向きます。
王允は強いて落ち着いた様子で、恭しく呂布を出迎えます。
司徒殿、悪く思わないでください。
逆賊張温の一味が逃亡し、行方不明になっている故、公卿大臣の邸宅を一軒一軒家宅捜索し、不満分子の摘発を行っているところなのです。
何卒、ご協力を。
王允は、先ほど自分がした董卓に対する批判が外に漏れ出たのではないことが分かると、ほっと胸を撫で下ろすのでした。
それは大事な任務。
当家に怪しい所はございませんが、どうぞ隅々までご覧ください。
王允がそう言うと、呂布は「かたじけない」と兵士たちに合図し、王允の邸宅の内部を調べさせたのでした。
奉先殿、お疲れでございましょう。
珍しい茶があるのです。
ささ、奉先殿はぜひこちらへ。
王允は呂布を客間へと案内し、検分が終わるまでこちらで寛ぐよう勧めるのでした。
そこに、茶を持って貂蟬が入ってきます。
常には従者が行うことですが、王允を案じた貂蟬は、呂布が事に及ぼうとしたときには、自ら身を呈して王允の命乞いをしようと考えていたのでした。
貂蟬は恥じらい、斜に、俯き加減に呂布に相対しますが、それでも貂蟬の端正な顔立ち、妖艶な佇まいは漏れ伝わります。
呂布は一瞬で、貂蟬に心を奪われてしまいました。
呂布が貂蟬の前で呆然立ち尽くしているのを見た王允の顔面には、いつか喜色が蘇って来るのでした。
この時、王允の脳裡には、董卓を倒して大漢を復興する、ある秘策が駆け巡っていたのでした。
西暦 | 出来事 | 年齢 | ||||||
劉備 | 孔明 | 曹操 | 孫策 | 袁紹 | 董卓 | 呂布 | ||
前202 | 劉邦が項羽を滅ぼす。漢王朝誕生。 | |||||||
前157 | 景帝が漢の皇帝に即位する。 | |||||||
168 | 霊帝が漢の皇帝に即位する。 | 7 | 13 | 14 | 30 | 7 | ||
181 | 何氏が霊帝の皇后となる。 | 20 | 26 | 6 | 27 | 43 | 20 | |
184 | 黄巾の乱が起こるも、同年鎮圧。 | 23 | 3 | 29 | 9 | 30 | 46 | 23 |
189.5 | 霊帝が崩御し、少帝が即位する。 | 28 | 8 | 34 | 14 | 35 | 51 | 28 |
189.9 | 少帝が廃位され、献帝が即位する。 | 28 | 8 | 34 | 14 | 35 | 51 | 28 |
190.1 | 反董卓連合軍が結成される。 | 29 | 9 | 35 | 15 | 36 | 52 | 29 |
190.2 | 董卓、都を長安に遷す。 | 29 | 9 | 35 | 15 | 36 | 52 | 29 |
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