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曹操の逃避行
董卓暗殺に失敗した曹操はすぐさま都洛陽(=現在の河南省西部。司隷(司州)東部。記事下の地図参照。)を抜け出し、一路東へ、父曹嵩が隠居している兗州の陳留郡(=現在の河南省開封の東南。)に向かって逃避行を繰り広げていました。
曹嵩はもと夏侯氏の出身で、大長秋(=宦官(去勢された男性官吏)の最高位。)曹謄の養子となり、太尉(=三公(司徒・司空・太尉)の一つで、軍事を司る最高責任者。もとは「司馬」と言った。)にまでなった人物でした。
曹家の祖先曹参は、漢の高祖(=初代皇帝。)劉邦に仕えた古参の武将で、次代の恵帝の時には相国(=現在の日本で言えば、内閣総理大臣。)を務めた人物です。
また、夏侯氏の先祖は、同じく劉邦の寵臣であった夏侯嬰です。
そのため、曹操は漢再興を掲げるには申し分ない出自でした。
献帝を操り、漢の国政を乗っ取る董卓の横暴を世に知らしめ、各地に散らばる有力な諸侯(=天子(皇帝)から領地を与えられ、そこを治める者。)に反董卓の檄(自身の考えを述べて決起を促すこと)を飛ばせば、必ず賛同者が現れるはずだ。
そうなれば、こっちのものだ。
曹操は捲土重来し、都に我が物顔でのさばる董卓の息の根を止めることを目指して、父のいる陳留に向かうのでした。
兗州の入り口ともなる中牟県(=現在の河南省。兗州南部。)の城門の前には門兵が2人、城門を通り過ぎる者の顔をつぶさに監視しています。
城壁には曹操の人相書き(=似顔絵。)が貼られ、「曹操を捕らえた者は万戸侯に封じ(=万戸の領地を与えること。)、黄金千金を与える」との触れ書きもあります。
曹操は地面に唾して乾いた土を湿らせ、その湿った土で顔を汚しました。
一台の荷馬車がやって来ます。
曹操はこれ幸いと、この荷馬車の後ろに回り込み、荷馬車を押す従者になりすまして城門を潜り抜けようとしました。
その時、門兵が突然叫びました。
おい!
貴様、怪しい奴。
顔を見せろ!
曹操は荷馬車から手を離すと、観念した人のように微動だにしません。
人相書きの顔は精巧に描かれていました。
言い逃れできる可能性は万に一つもなかったのです。
おい、貴様はこの人相書きによく似ているな。
曹操か?
門兵は人相書きの顔と曹操の顔を何度も何度も交互に見返し、「いたぞ!間違いない、こいつは曹操だ!」と叫びました。
曹操は天を仰ぎます。
これまでか・・・。
陳留まではあと少しであるのに、極めて無念。
しかし、これも天命であろうか。
県令(=県の統括者。「県」は日本の市区に相当する。)の前に引き立てられた曹操には、すでに処刑される覚悟は出来ていました。
曹操の姿を見た県令は、身を乗り出すこともしないで、「うん、間違いない、国賊曹操だ」と言いました。
そして、喜悦に満ちた表情を浮かべながら、曹操を捕らえた門兵や官吏たちに命じるのでした。
私は先年、洛陽の官吏を務めていたからお前の顔は見たことがある。
これで私は朝廷から万戸侯に封じられ、億万長者となろう。
曹操を捕らえたお前たちにも恩賞が遣わされるであろう。
こ奴は明日、洛陽へと送還する。
出立まで地下牢に放り込んでおけ。
お尋ね者は捕らえた。
お前たちは国を窮地に陥れる賊を捕らえた英雄である。
前祝いだ、今日は好きなだけ酒に酔いしれるがよい。

陳宮との出会い
夜が更け、県の官吏たちはみな強かに酔いしれ、それぞれの家に帰って行きました。
県令はこの時を待っていたとばかりに、曹操が入れられている地下牢に行き、「おい」と曹操に声を掛けました。
お前は董卓相国に尻尾を振る腰巾着であったろう。
なぜ飼い主である相国(=董卓。)を暗殺しようなどと、大それたことを考えたのだ?
曹操はニヤッして、吐き捨てるようにつぶやきました。
嗚呼、燕雀寧んぞ鴻鵠の志を知らんや。
(燕や雀のような小鳥が、どうして白鳥やくぐいのような大きな鳥の志を理解することができようか?)
それは、かつて暴虐の限りを尽くした秦に反乱を起こした陳勝が、まだ日雇いの労働者であった頃、自分の大志を同僚に嘲笑された時に放った言葉でした。
県令は「なんだと?」と、怪訝な顔をしました。
曹操は県令を睨みつけながら言いました。
おれは漢の高祖に仕えた曹参の末孫。
代々漢の禄を食みながら、国賊董卓の横暴を黙って見ていられるほど恩知らずではない。
仕損じたのは誠に無念である。
が、漢に忠義は尽くした。
この曹操、先祖にも後世にも恥じるところはない。
もはや死んでも悔いはない。
四の五の言わず、早くおれを殺すがいい。
それを聞いた県令は、徐に曹操を獄から出し、縄を解きました。
呆気にとられる曹操の前にあぐらをかき、県令は言いました。
昼間は失礼いたした。
門番たちを欺くためには、あのようにしてそなたを愚弄し、辱めるしかなかったのです。
私は県令を務めていますが、いずれは漢に報いたいと考えていました。
だから、そなたの一連の行動には心から敬服しておりました。
どのような意図があって董卓を殺害しようとしたのか、そなたの口から直接聞きたいと考え、こうして夜更を待ったのです。
曹操は天を仰いでから平伏し、「天はこの曹操を見捨ててはいなかったか!」と言って叩頭しました。
そして、「そなた、名は何と申す?」と県令に向かって問いました。
私は陳宮、字を公台と言います。
しかし、孟徳(=曹操の字。)殿、逃避行が成功した暁には、どうなさるおつもりでしたか?
高希希監督『Three Kingdoms』の陳宮
曹操は父のいる陳留で旗揚げし、再び董卓を討つ計画であったこと、その後に献帝をお救いして漢を再興するつもりであったことを陳宮に打ち明けました。
感服いたしました。
よもや、そこまでお考えであったとは。
ご迷惑でなければ、どうか私もお供させてください。
曹操は瞬間、眉をしかめました。
そなた、家族は?
私と行動を共にすれば董卓の恨みを買うぞ。
わしは董卓の恐ろしさを側で見てきた。
いつ何時、今日の私のような目に遭うか分からぬが…。
陳宮はゆっくり首を振り、決然として答えました。
私の妻子はこの中牟県におりますが、漢の再興のためには私事など小事にすぎません。
妻子は殺されるでしょう。
しかし、それは漢に忠義を尽くすのですから名誉の死です。
事は急を要します。
茨の道になることは百も承知。
今すぐお父上のいる陳留を目指しましょう。
曹操は陳宮の手を握りしめ、「かたじけない」と涙をこぼすのでした。
こうして、曹操は陳宮と共に中牟県を後にし、再び苦難に満ちた逃避行の旅に出るのでした。
西暦 | 出来事 | 年齢 | ||||||
劉備 | 孔明 | 曹操 | 孫堅 | 袁紹 | 董卓 | 呂布 | ||
前202 | 劉邦が項羽を滅ぼす。漢王朝誕生。 | |||||||
前157 | 景帝が漢の皇帝に即位する。 | |||||||
168 | 霊帝が漢の皇帝に即位する。 | 7 | 13 | 13 | 14 | 30 | 7 | |
181 | 何氏が霊帝の皇后となる。 | 20 | 26 | 26 | 27 | 43 | 20 | |
184 | 黄巾の乱が起こるも、同年鎮圧。 | 23 | 3 | 29 | 29 | 30 | 46 | 23 |
189.5 | 霊帝が崩御し、少帝が即位する。 | 28 | 8 | 34 | 34 | 35 | 51 | 28 |
189.9 | 少帝が廃位され、献帝が即位する。 | 28 | 8 | 34 | 34 | 35 | 51 | 28 |
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