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王允の嘆き
ああ、蒼天よ!
先帝よ!
この不忠者の王允をお赦しください!
司徒(=三公(司徒・司空・太尉(司馬)など常設の官では最高位)の一つ。行政を司る長。)王允は私邸に帰ると従者を遠ざけ、自分の部屋にこもって跪き、漢の歴代皇帝の御霊に謝罪したのでした。
董卓の横暴によって少帝は廃されて弘農王に格下げとなり、のみならず董卓の参謀李儒の手に掛かって何太后(=弘農王(劉弁)の生母。)と共に凄惨な最期を遂げていました。
李儒は幽閉されていたこの母子のもとを訪ね、「董卓相国(=「相国」は、現在の日本で言えば内閣総理大臣。)からの贈り物でございます」と言って酒を献上しました。
李儒よ、それは毒杯であろう?
違うと言うなら、まずはお前が飲んでみせなさい。
何太后がそうと言うと、李儒は舌打ちを一つして、今度は短刀を捧げ持ちながら、「では、こちらの方がお好みですかな?」と言って2人に詰め寄ります。
必死の抵抗も虚しく、最後には楼台の上から2人は突き落とされ、ここに何氏は滅んだのでした。
その知らせが王允のもとにもたらされ、今日は殊更、王允は自らの非力さに胸を痛めているのでした。
うら若い女性の声がします。
それは、16歳になる王允の養女貂蟬でした。
貂蟬よ。
わしは袁紹が饗宴で董卓を批判して罵倒された時も、義憤を抱え、匕首で董卓を襲撃した者が殺された時も、あやつめに何もものを申すことが出来なかった。
そして、少帝は廃され、ついには獣の李儒によって殺害されてしまった。
先帝に会わせる顔がない。
自分が恥ずかしくて仕方がないのだ。
「お父上のせいではございません」と、貂蟬は王允の背中をさすります。
お父上のせいではありません。
義憤に駆られて諫言(=目上の者の誤りを指摘して改善を促すこと。)なさいましても、無駄に命を散らすだけでございます。
それよりは堪えて、情勢を覆す機会をうかがう道を選択なさったお父上の判断は正しかったのです。
お父上は過去に、十常侍の張譲と黄巾賊が裏では繋がりを持っていたことを暴き、十常侍に恨まれることを承知で霊帝に密告した勇気の持ち主です。
いずれ道は開けましょう。
どうかお元気になられて、決起の日に備えてお食事をお摂りください。
高希希監督『Three Kingdoms』の貂蝉
王允は貂蟬を養女とすると、多種多様な芸道を習わせ、古今の学問を修めさせました。
まさに溺愛という言葉が相応しい接し方でした。
その才は、王允の息子たちよりも遥に優れていました。
この貂蟬は後に大漢を救うことになるのですが、それはまだまだ後の話です。

王允、反董卓を密議する
ある日、相国である董卓が朝議に姿を現さず、のみならず李儒や呂布など董卓に近しい者も参内しませんでした。
王允はこれを千載一遇の好機と考え、以前から気の置けない間柄であった官吏たちを、自分の誕生を祝う祝賀に招待します。
宴もたけなわになった頃、王允は袖を振って合図を送ります。
すると、従者は扉を固く閉ざし、王允と官吏たちだけの密室の状態となりました。
王允はさめざめと泣いています。
官吏の1人が尋ねました。
王允は意を決したように言いました。
今日は私の誕生日などではない。
今日は、私が信頼する者たちだけにお越しいただいた。
人々が顔を見合わせます。
王允は涙を袖で拭い、今度は参集した面々を見渡しながら話し始めました。
集まってもらったのは他でもない。
董卓は洛陽に入るや、少帝を廃位し、自ら相国となって専横を極めておる。
このままでは、奴が帝位を簒奪(=帝位を無理矢理奪うこと。)することもあり得る。
まさに危急存亡の秋である。
我々の一族は代々漢の禄を食み、大漢に報いなければならない身分だ。
さぞや憤りを抱えていることと思う。
いかにすればこの状態を打破できるか、今日は忌憚なく話し合いたいと思う。
沈黙が宴席を包みます。
官吏の誰しもが董卓の恐ろしさを熟知しています。
それに、王允の邸宅と言えども、滅多なことを言えばすぐに密告され、いつ首を落とされてもおかしくはありません。
実際、董卓への不平不満を口にした者が密告され、反逆の汚名を着せられて投獄される事件も起きていました。
朝廷の文武百官はみな疑心暗鬼になっていたのです。
王允は静まり返った官吏の様子を見渡して涙を流し、例のように「おぉ、先帝よ!」と漢の祖廟に向かって平伏するのでした。
すると、どこからか高笑いをする声が聞こえて来ました。
一同は騒然とします。
王允は強い口調で「誰だ?」と尋ねます。
その者は笑ったまま返答をしません。
王允はさっきまで泣いていたのが嘘のように、顔を紅潮させて怒鳴りつけます。
誰だ、笑っておるのは?
返答次第では赦しはせぬぞ!
笑い声を上げている人物は「これは失礼」と言って、それでもまだ笑いを堪えきれない様子でいるのでした。(第16回に続く)
西暦 | 出来事 | 年齢 | ||||||
劉備 | 孔明 | 曹操 | 孫堅 | 袁紹 | 董卓 | 呂布 | ||
前202 | 劉邦が項羽を滅ぼす。漢王朝誕生。 | |||||||
前157 | 景帝が漢の皇帝に即位する。 | |||||||
168 | 霊帝が漢の皇帝に即位する。 | 7 | 13 | 13 | 14 | 30 | 7 | |
181 | 何氏が霊帝の皇后となる。 | 20 | 26 | 26 | 27 | 43 | 20 | |
184 | 黄巾の乱が起こるも、同年鎮圧。 | 23 | 3 | 29 | 29 | 30 | 46 | 23 |
189.5 | 霊帝が崩御し、少帝が即位する。 | 28 | 8 | 34 | 34 | 35 | 51 | 28 |
189.9 | 少帝が廃位され、献帝が即位する。 | 28 | 8 | 34 | 34 | 35 | 51 | 28 |
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