この記事で分かること
☆古典(古文)の読解法「主語の判別法」
①登場人物には印をつける
②助詞を用いた主語判別法
③尊敬語を用いた主語判別法
古典(古文)の読解法「主語の判別法」
古文を読むのはなぜ難しいのか。
理由はいくつかあります。
・昔の言葉を使っているから。
・文法構造が複雑だから。
・昔の世界のことが書かれているから。
・接続詞が少ないから。
などなど、様々ありますが、古文の読解を最も難しくさせている要因は、「古文は主語が省略される文学であるから」ということになるでしょう。
なぜ主語が省略されるかと言えば、それは古文が、人に見せよう(出版しよう)という目的であまり書かれていないからです。
最初の大体5行目くらいまではきちんと主語が書かれるわけですが、それ以降は当たり前のように筆者は主語を省いていきます。
そのせいで、古文に慣れていない高校生は、本文半ば過ぎから、一体誰が何をしているのかが全く見当もつかなくなって、結局感覚を頼りにして当てずっぽうで答えを決めるのです。
そこで、本日は「最強の古文読解」と題して、古文を読解する際の「主語の判別法」について解説し、「誰が何をした」の「誰が?」を突き止める訓練をしたいと思います。
古文は現代文とは異なり、書かれている内容は平易です。
そのため、一文一文「誰が何をした」ということさえ分かれば、安定感をもって読み進めていくことが出来ます。
ちなみに、古文単語を勉強するときは、「何をした」の部分に当たる動詞から暗記していくことをお勧めします。
登場人物には印をつける
現在高校3年生の方は、すでに人物が5人も6人も登場してくる古文の演習をしたことがあると思います。
大学入学共通テストでも狙われるであろう「物語」作品には、多くの人物が登場します。
そのため、登場人物の整理は必須となります。
では、どのように整理すればよいのでしょうか。
①登場人物に印をつける。
②印をつけた人物同士を線で結び、本文の中で簡易的な相関図を完成させる。
③主語の省略が起こったら、印をつけた人物を代入しながら読んでいく。
④主語の省略部分には必ず主語を明記し、読み直しをしたときにすぐ分かるようにしておく。
リード文には重要な情報が書かれています。
そのため、リード文から古文の読解は始まっていると考えるようにしましょう。
リード文にも登場人物が記載されていると思いますので、しっかりと印をつけてください。
大体、5行目くらいまでは人物の登場が相次ぐと思いますが、そこで登場した人物を線でつなぎ、簡単な相関図とします。
そして、主語の省略が起こった時には、印をつけた人物を代入して読み進めていけば、読解が極めて飛躍的にスムーズになります。
主語の省略された文章には、必ず主語を明記しておきましょう。
ただし、時間がもったいないので、丁寧に書く必要はありません。
例えば「藤原道長」でしたら、「道」とでも記しておきましょう。
助詞を用いた主語判別法
古文の先生からもしつこく言われていることだと思いますが、助詞は読解をする上での重要な道しるべとなります。
①接続助詞「て」で結ばれた前後の文章は、原則的に主語は変化しない。(90%以上)
②接続助詞「を」「に」「ば」の後は、6~7割の確率で主語は変化する。
接続助詞の「て」で結ばれている場合、主語はほとんど変化しません。
「今日、私は学校に行って、勉強して、帰って寝て・・・」の「て」です。
少なく見積もっても、90%以上の確率で同じ主語となります。
しかし、言語に絶対はありませんので、注意して文脈判断を行ってください。
この「て」と同様に主語が変化しにくい助詞として、以下のものが挙げられます。
「して」はもともとサ変動詞「す」の連用形「し」に、接続助詞「て」がくっついて出来たものですので、必然的に主語が変化しにくくなります。
同様に、「で」という接続助詞も、元来打消の助動詞「ず」に「て・して」がくっついて、それがつづまった言葉ですので、こちらも主語が変化しにくい特性があります。
「つつ」は「同時(~ながら)」を表すので、同じ人物の行動を直後に述べやすい、つまり主語が変化しにくい助詞となります。
一方、「を」「に」「ば」は主語が変化しやすい助詞となりますので、見かけたら直後にスラッシュを入れ、主語の変更を疑いましょう。
尊敬語を用いた主語判別法
尊敬語は、助詞と並んで主語判別の生命線です。
以下の問題に挑戦してみてください。
練習問題1
中納言、この女を見給ひて、歌など詠み給ひけれど、去りにけり。
問 傍線部「去りにけり」の主語は誰か。本文中から抜き出しなさい。 *「給ふ」は、動詞の下に接続したときは「~なさる・お~になる」という意味になり、接続した動詞の動作主を敬う補助動詞となります。 |
高2の授業で、「尊敬語を用いた主語の判別法」を解説するときに、よくこの例題を用います。
その際、この問題の正答率はおおむね50%です。
まず、解く際に、「中納言」と「この女」に印をつけたでしょうか。笑
必ず登場人物に印をつけるようにしましょうね。
「中納言、この女を見給ひて、」まではもちろん「中納言」が主語です。
「中納言はこの女を見なさって(ご覧になって)、」の意です。
当時、この文章を書いている作者は、中納言というポストが朝廷の高官だと知っているので、「給ふ」という尊敬語を用いて中納言を敬っているのです。
次に、「歌など詠み給ひけれど、」ですが、ここで早くも主語の省略が起こっています。
主語は誰でしょうか。
先ほどお教えしましたが、「て」で結ばれているので、主語は変わらず「中納言」ということになります。
解釈をすれば、「(中納言は)和歌などを詠みなさった(お詠みになった)けれど、」の意となります。
ここでも引き続き、作者は中納言が高い位だと知っているので、中納言の動作には「給ひ(給ふ)」を用いて中納言に敬意を表しているのです。
古文の世界では、筆者は高い位の人物には一貫して敬語を用います。
徹底していますよね。
みなさんも、日常的に担任の先生や校長先生の動作には尊敬語を用いていると思います。
「〇〇先生が紹介なさった本を読む」
「〇〇校長先生がお書きになった書」
それと同じように、昔の人々も、位の高い人物に対しては徹底して尊敬語を用いるのです。
さて、問題の「去りにけり」の主語ですが、もうお分かりになったでしょうか。
ここまでの解説で、すでにヒントは散りばめられています。笑
「去りにけり」には、尊敬語(「給ふ」)がくっついていませんね。
そのため、「去りにけり」の動作主は位のそれほど高くない人物だと分かるのです。
つまり、主語が中納言ではありえないということになります。
女性にとっては不本意かもしれませんが、当時女性に対しては皇族でもない限り、尊敬語は用いません。
正解は、「この女」です。
古文の世界で、尊敬語を用いなければならない位・官職は以下のようになります。
尊敬語を用いなければならない位・官職
皇族
天皇(帝)、上皇、法皇など
中宮(皇后)、大宮(皇太后)、親王、内親王
臣下
一位・・・太政大臣、摂政、関白
二位・・・左大臣、右大臣、内大臣
三位・・・大納言、中納言、近衛大将
これらの人物には、原則的に尊敬語を使います。
もっと言えば、皇族や一位以上の人物には、最高敬語(二重尊敬)を用いることが多くなります。
そのため、例えばみなさんが読んでいる古文に、「天皇」「大納言」「女房(宮中で仕える女性)」の3人が出てきたとして、主語の省略が起こった場合、
・最高敬語が用いられていれば、主語は天皇
・通常の尊敬語が用いられていれば、主語は大納言
・尊敬語が用いられていなければ、主語は女房
という主語の判別が可能になるのです。
これが、「尊敬語を用いた主語の判別法」です。
以下に、最高敬語と通常の尊敬語の一覧を示します。
これを頭に入れ、主語判別を行ってください。
最高敬語と通常の尊敬語の一覧表
通常動詞 | 通常の尊敬語 | 最高敬語 | 訳 | |
1 | ー | ~給ふ | ~せ給ふ・~させ給ふ | ~なさる・お~になる |
2 | ー | ~おはす | ~せ(させ)おはします | ~ていらっしゃる |
3 | あり | おはす | おはします | いらっしゃる |
4 | 言ふ | 仰す | 仰せらる | おっしゃる |
5 | 言ふ | のたまふ(宣ふ) | のたまはす(宣はす) | おっしゃる |
6 | 知る | 知ろす・知らす | 知ろしめす・知らしめす | お知りになる・お治めになる |
7 | 思ふ | 思す・思ほす | 思しめす | お思いになる |
8 | 聞く | 聞こす | 聞こしめす | お聞きになる |
9 | 見る | 見給ふ | ご覧ず | ご覧になる |
10 | 寝・寝ぬ | 寝給ふ | 大殿籠る | お休みになる |
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では、練習問題で力試しをしましょう。
練習問題2
九月二十日のころ、(私は)ある人に誘はれ奉りて、明くるまで月見ありく事侍りしに、思し出づる所ありて、案内せさせて、入り給ひぬ。(『徒然草』第三十二段)
問 傍線部「入り給ひぬ」の主語を本文中から抜き出しなさい。 *「思し出づ」…「思ひ出づ」(思い出す)の尊敬語で、「思い出しなさる」の意。「思す」(「思ふ」の尊敬語(お思いになる))に「出づ」(出る)が接続している。 |
解説
冒頭、接続助詞「て」で結ばれているので、「明くるまで月見ありく事侍りしに」まで主語は「私」です。
「9月20日のころ、私はある人に誘われ申し上げて、夜が明けるまで月を見て出歩きました時に」の意となります。
「思し出づる」は「思し出づ」の連体形で、注にもある通り、尊敬語です。
この部分、「私が思い出しなさるところがあって」のように、自分に尊敬語を用いるということは考えづらいので、「ある人」が動作主(主語)だと分かります。
つまり、作者は「ある人」に尊敬語を用いていることになります。
のみならず、「ある人」が高位の人物、恐らく貴族だろうということも見えてくるのです。
さて、「入り給ひぬ」の主語ですが、二通りの理由から、答えは「ある人」となります。
①「(ある人は)思し出づる所ありて、案内せさせて、入り給ひぬ。」まで「て」でつながっているので、主語は「ある人」である。
②傍線部には尊敬語「給ふ」が用いられていて、今回尊敬語を用いるべきは「ある人」なので(自分に尊敬語を用いるのはおかしいので)、主語は「ある人」である。
もう一問行きましょう。
練習問題3
この大納言(藤原公任)の参り給へるを、入道殿(藤原道長)、「かの大納言、いづれの船にか乗らるべき。」とのたまはすれば、「和歌の船に乗り侍らむ。」とのたまひて、詠み給へるぞかし、(「三船の才」『大鏡』)
問 傍線部「のたまひて」の主語(動作主)は誰か。本文中から抜き出しなさい。 *「のたまひ」…「言ふ」の尊敬語「のたまふ」の連用形。「おっしゃる」の意。 *「のたまはすれ」…「言ふ」の尊敬語「のたまはす」の已然形。「おっしゃる」の意で、「のたまふ」より敬意が強い(非常に位の高い人に用いる最高敬語(に準じるもの))。 |
解説
「この大納言(藤原公任)の参り給へるを、入道殿(藤原道長)、「かの大納言、いづれの船にか乗らるべき。」とのたまはすれば、」までで、筆者が誰にどのような尊敬語を用いているのか、筆者のスタンスをつかみます。
今回は、藤原公任には「給ふ」という通常の尊敬語を用い、そして藤原道長には、「のたまはす」という最高敬語(に準じる言葉)を用いていることが分かります。
もう答えが分かりましたね。
「のたまふ」は通常の尊敬語ですので、答えは「大納言(藤原公任)」となります。
加えて、「ば」の直後は主語の変更が起こりやすいので、「のたまはすれば」で主語の変更が起こると考えます。
その意味でも、答えは「公任」となります。
通釈
この大納言が参上なさったところ、入道殿は「あの大納言は、どの船にお乗りになるのだろうか」とおっしゃったので、(大納言は)「和歌の船に乗りましょう」とおっしゃって、(大納言は和歌を)詠みなさった…
まとめ
古典(古文)の読解法
☆古文は内容自体、それほど複雑なものが書かれているわけではなく、「誰が何をした」が分かれば読解しやすくなるため、古文単語の中でも「何をした」に当たる動詞を先に覚えることが効果的である。
☆登場人物には印をつけ、印をつけた人物同士を線で結び、本文の中で簡易的な相関図を完成させる。
☆登場人物には印をつけ、主語の省略が起こったら、印をつけた人物を代入しながら読んでいく。
☆主語の省略部分には必ず主語を明記し、読み直しをしたときにすぐ分かるようにしておく。
☆「て」「して」「で」「つつ」で結ばれた前後の文章は、原則的に主語は変化しない。
☆「を」「に」「ば」の後は、6~7割の確率で主語は変化する。
☆最初の数行で、筆者が誰にどのような尊敬語(通常の尊敬語、最高敬語)を用いているのか、筆者のスタンスをつかみ、主語の省略が起こったらそのスタンスを手掛かりにして主語を判別する。
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