この記事で分かること
☆新テスト「小説」の問題形式
→昨年までのセンター試験との比較を通して、新テスト「小説」の問題形式を分析します。
☆新テスト「小説」作品の内容
→新テストが扱う小説作品の内容はどのようなものになるのか、こちらもセンター試験との比較を通して分析します。
☆新テスト「小説」対策の勉強法
→普段、どのようなことに注意して、小説読解の勉強をすればよいのかを解説します。
新テスト「小説」の問題形式
長きに渡るセンター試験の時代が幕を閉じ、今年度より新テストに移行します。英語の外部試験利用が延期されたり、記述式の問題が見送られたりするなど、色々朝令暮改の未確定な状態での試験施行となり、受験生のみなさんも暗中模索の状態で不安を抱えていることと思います。そこで、今回は新テスト「小説」の問題がどのような形式で出題されるのかを徹底分析したいと思います。
ちなみに、新テスト(大学入学共通テスト)の試行調査(プレテスト)は今まで2回行われています。まだ問題を解いていない方は、下にリンクを貼っておきますので、ぜひ一度挑戦してみてください。
新テストは、従来のセンター試験とはどのように異なっているでしょうか。両者を見比べることによって、新テストの問題形式を分析したいと思います。まずは、センター試験の問題形式を見て行きましょう。
センター試験「小説」の問題形式(過去10年間)
第2問(配点50点)
問1 文学的な語彙の意味 3点×3問=9点 →毎年必ず出題された。 問2~5 登場人物の心情把握 7~8点×1~3問=7~24点 →毎年必ず出題されるが、その年度によって設問数は異なる。 問6 文章の表現・構成の特徴 4点×2つ=8点 →2010、2011年度のみ「文章の叙述の特徴」が出題されたが、それ以外は「文章の表現・構成」が出題された。 *その他、傍線部の理由や説明を選ばせる問題が出題される。 |
ご覧の通り、毎年問題形式が一定していましたので、漢文と同じく、比較的対策しやすい科目の1つでした。年度によって大きくぶれることがないので、センター試験「小説」に関しては、「文学的語彙」「心情把握」「表現・構成」に注意した学習を行うよう、生徒には毎年指導を行ってきました。
では、一方、新テストはどのような問題形式になるのでしょうか。その指標となるのが、新テストに先駆けて行われた「大学入学共通テスト試行調査(プレテスト)」です。この試行調査の第3問「文学的な文章」では、平成29年度は小説、平成30年度は詩とエッセイが出題されています。
平成29年度大学入学共通テスト試行調査
第3問
光原百合の小説「ツバメたち」 問1 漢字の問題3問(「仰々しい」など文学的語彙含む) 問2 傍線部の根拠を選ぶ問題 問3 登場人物の心情把握2問 問4 2つの文章の関係性を選ぶ問題 問5 3か所の構成・表現についての説明を選ぶ問題 |
平成30年度大学入学共通テスト試行調査
第3問
・詩「紙」(『オンディーヌ』より) ・エッセイ「永遠の百合」(『花を食べる』より) ともに吉原幸子作 問1 文学的な語彙3問(「いぶかる」「手すさび」「いじらしさ」) 問2 傍線部「何百枚の紙に 書きしるす 不遜」の、「不遜」の理由を選ぶ問題 →筆者がどうして「不遜」と思っているかを聞いているので、心情把握問題と言える。 問3 傍線部の説明を選ぶ問題 問4 傍線部の説明を選ぶ問題 問5 傍線部「私はさめる」の理由を選ぶ問題 →筆者がどうして「さめる」のかを聞いているので、登場人物の心情把握問題と言える。 問6 表現についての説明文に適語を挿入する問題 |
ご覧の通り、実はセンター試験と共通している要素が多分にあることが分かります。つまり、「新テスト」も比較的オーソドックスな問題形式であるということなのです。2020年1月29日に文部科学省が示した「令和3年度大学入学者選抜問題作成方針」には、「(新テストは)センター試験の良問の蓄積は受け継ぎつつ」と明記されています。そのため、センター試験と激しく乖離するような問題形式にはならないと考えるのが妥当でしょう。従って、センター試験と同様に、今年度も「小説」の学力を向上させるためには、以下の3点の学習の遂行が求められます。
①文学的な語彙の習得
②心情把握の問題に慣れる
③文章の表現・構成を意識しながら読む
「文学的な語彙」は市販の現代文重要語に掲載されているものがありますので、自分の使いやすいものを探してみてください。「心情把握」「文章の表現・構成」は、センター試験の過去問題やセンター試験の対策問題集などを用いるのもよいでしょう。というのも、「新テスト」対策問題集のラインアップが充実していないですし、センター試験の過去問題を用いれば、過去の受験生たちとの学力差が把握できるからです。
筆者おススメの参考書・問題集
センター試験過去問研究 国語 (2020年版センター赤本シリーズ)
新テスト「小説」作品の内容
センター試験では過去4年間で、2018年度を除けば、いずれも大戦(太平洋戦争)前後の作品が出題されました。作品を示すと以下のようになります。
2017年度 戦前(野上弥生子『秋の一日』1912年発表)
2018年度 老夫婦(井上荒野『キュウリいろいろ』2014年発表)
2019年度 戦前(上林暁『花の精』1940年発表)
2020年度 戦時中(原民喜『翳』1948年発表)
これは、敢えて受験生とはかけ離れた時代の小説を読ませることによって、多様化する価値観に対する理解、自分とは異質のものに対する理解を求める文部科学省の意思表示だと考えられます。グローバルな社会、人工知能(AI)が加速度的に普及する社会、超高齢化社会といった、今までに経験したことのない社会を生きるための力を養って欲しいという文科省の要望が透けて見えるのです。では、「新テスト」はどのような時代や内容を扱う小説が出題されるでしょうか。
平成29年度の試行調査の問題も、時代は新しいとは言え、「群れから離れて、王子(の像)のために貧しい人の救済に奔走するツバメの話」でした。また、平成30年度の試行調査では詩が出題されており、やはり今後も異質なものに対する理解、自分とは価値観の異なる他者に対する理解を求めるような傾向は続くと考えられます。
また、文科省の作問方針には「異なる種類や分野の文章などを組み合わせた複数の題材による問題を含めて検討する」との文言もあり、試行調査では、詩やエッセイ、童話などが出題されたため、その他の文学ジャンルである「短歌」「俳句」などの韻文も含めて意識的に教科書などで触れ、文章上のレトリック(技法)や韻文の修辞法などに関しても軽くおさらいをしておく方がよいです。ただ、あくまで触れておく程度で構わないでしょう。
以上のことから、新テストの小説作品の内容に関しては、以下の2点の学習の遂行が求められます。
①若い世代の自分と共感する作品より、自分の存在している世界とは違う、異質な価値観を有する作品に多く触れることが重要。
②小説だけではなく、エッセイや童話、のみならず詩、短歌、俳句などの韻文も含めて、幅広く文学ジャンルに触れておくことが必要。
まとめ
新テスト「小説」の問題形式・内容とその勉強法
☆新テストの試行調査はセンター試験頻出の問題形式(「文学的な語彙」「心情把握」「表現・構成」)を踏襲しているので、その3点を根幹とした学習が必須。
☆若い世代の自分と共感する作品より、自分の存在している世界とは違う、異質な価値観を有する作品に多く触れることが重要。
☆センター試験「小説」の過去問題を対策として用いるのも適当。
☆平成29年度の試行調査では小説内に「童話」が挿入されており、また平成30年度では詩やエッセイが出題されているので、その他「短歌」「俳句」なども含めて、幅広く文学ジャンルに触れておく方がよい(あくまで触れておく程度で構わない)。
関連記事
コメント